2026年カカオ発酵実験の経過報告。Brix、パルプpH、ニブPH、木箱温度、外気温から見えた今年のエクアドルアマゾンアリバカカオの特徴

2026年カカオ発酵実験の経過報告。Brix、パルプpH、ニブPH、木箱温度、外気温から見えた今年のエクアドルアマゾンアリバカカオの特徴

こんにちは、ママノ江沢です。2026年のカカオ発酵実験の経過報告です。

今年は、Brix(糖度)、果肉pH、ニブpH、木箱内温度、外気温を継続して計測しています。まだ収穫期の途中ではありますが、現時点でも例年との違いや、品質の安定化に向けた重要な示唆が見えてきました。

今回の記事では、今年の特徴、昨年との違い、果汁量に関する新しい仮説、そして論文との接点を整理しながら、ママノがどのように発酵設計を考えているかをご紹介します。

1.今年の前提条件

2026年のエクアドル・ナポ県は、例年より寒く、雨の多いシーズンとなりました。その影響もあり、収穫の立ち上がりは12月ではなく1月下旬からのスタートとなっています。

天候条件は、発酵の進み方や木箱内温度の上がり方に強く影響します。同じ地域、同じ組合、同じような木箱発酵であっても、その年の気候によって経過は大きく変わります。

そのためママノでは、毎年の発酵を「前年と同じ条件で機械的に繰り返す」のではなく、その年の実測値と官能評価をもとに判断することを重視しています。

2.今年計測している項目

今年は主に以下の数値を記録しています。

・Brix(糖度)
・果肉pH
・ニブpH
・木箱内温度
・外気温

木箱内の変化を数値で追いながら、最終的には乾燥後の豆を官能評価し、その年の発酵設計を考えていきます。

ママノでは、ここ3年ほどは基本的に4日発酵を採用し、5日目に取り出しています。ただし、日数だけで機械的に決めているわけではありません。発酵終了の一つの条件として、木箱内温度が45度を超えて数時間経過していることを重視しています。これは、温度上昇によって種子としての成長を止め、香り形成に必要な発酵を十分に進めるためです。

3.例年との違い。4日目の温度上昇が低い

今年の最も大きな特徴は、4日目の木箱内温度の上がり方が例年より低いことです。

例年は、4日目で平均43度程度まで上昇し、低い時でも40度を下回ることはほとんどありませんでした。そして5日目には48度程度まで上がるため、その時点で発酵を終了させる流れでした。

一方で今年は、4日目の木箱内温度が33度から40度程度にとどまるケースが多く見られています。ただし、5日目には昨年と同様に48度前後まで上がっているため、現時点では取り出しまでの経過時間は昨年と同じで大きな問題はないのではないかと考えています。

つまり今年は、「途中の上がり方」は違うが、「最終到達点」は近い、という状態です。

この違いが最終的な香味にどう影響するかは、乾燥後の評価をあわせて見ていく必要があります。

4.ロット12で始めた比較。果汁量は品質安定に関係するのか

今年はロット12で、木箱内の果汁がたっぷりある木箱と、果汁が少なめの木箱の比較を始めています。

きっかけは、有志で集まった発酵ディスカッションの中でいただいた「果汁量の安定が、クオリティの安定と向上につながるのではないか」という指摘でした。

Wiñak組合では、一般的に以下のような流れでカカオが集まります。

・農家が前日にカカオポッドを割る
・メッシュ袋に入れて果汁を自然に落とす
・翌日に組合が集荷に来る
・計測と支払いを行う
・組合に持ち帰り、木箱に400kg入れて発酵を開始する

このプロセスでは、近いコミュニティと遠いコミュニティ、収穫した時間、果実の状態などによって、木箱に投入される時点の果汁量にばらつきが出ます。これはある程度避けにくい現実です。

一般的には、果汁量は多すぎてもよくないため、一定量は落とすことが前提です。しかし逆に、果汁量が特に少ない木箱では、果汁を少し補うことで、発酵の安定化と品質向上につながる可能性があります。

5.論文との接点。Back Additionという考え方

この仮説に近い手法として、論文上では「Back Addition」があります。

参考にしている論文では、トリニダード・トバゴ産カカオを使い、カカオ果汁を再添加した発酵を比較しています。論文のタイトルは以下です。

Effect of the addition of cocoa sweatings and time of fermentation on flavor compounds and sensory perception of 100% roasted cocoa liquor

この論文では、カカオ果汁を添加して5日間発酵させた場合、果汁無添加で7日間発酵させたサンプルと、知覚的に類似した焙煎カカオリカーが得られたと報告されています。

一方で、論文でも以下の点はまだ不明とされています。

・特定のフレーバー化合物がなぜ安定化するのか
・それが官能特性とどう関係するのか
・果汁再添加が消費者受容性にどう影響するのか

つまり、理屈としては有望でも、まだ十分に解明された手法ではありません。

そのためママノとしても、論文をそのまま鵜呑みにするのではなく、現場での実測と官能評価を重ねながら慎重に見ています。

6.ママノが目指している香味設計

ママノがWiñak組合のアリバに求めている方向性は、フルーティさとフローラルさの最大化です。

昨年、発酵時間別の豆を別々に乾燥させて評価したところ、フローラル、フルーティ、青さといった要素は3日目以降少しずつ減少していく一方で、チョコレートらしさ、コク、ボディ、ミルキー感は少しずつ増していくように感じました。

また焙煎においても、低温から高温へ上げて比較すると、最初に減少するのは繊細なフルーティ香、次に揮発系のフローラル、さらにしっかりしたフローラル、という順番のように感じています。

Wiñakのアマゾンアリバは、4日発酵中心であることもあり、コクやボディ、クリーミーさのような、メイラード反応で強く引き出されやすい方向の香りは比較的弱めです。そのため軽やかなボディになりやすく、低温焙煎と相性が良い豆だと考えています。

一方で、ウィニャック組合は、ママノ以外の海外顧客向けには、従来どおり6日発酵で仕上げている豆もあります。今年に関しては、5日目より6日目の方がニブ内部のpHが0.1から0.7程度低く、より酸性側に寄り、木箱中心温度も2度から3度低いという違いが出ています。

同じアリバであっても、同じ組合であっても、目指す味づくりが違えば、発酵設計も違ってきます。

7.論文は参考。最終判断は現場と官能評価

クリオロ、トリニタリオ、フォラステロの比較論文でも、好ましい官能特性が出てくる速度やタイミングは、品種やプロセスによって異なることが示されています。

参考論文
Impact of Spontaneous Fermentation on the Physicochemical and Sensory Qualities of Cacao

論文は大切な参考材料ですが、最終的には現場での観察と、自分たちの官能評価、そして使っていただくお客様のフィードバックが重要だと考えています。

ママノはチョコレートメーカーであると同時に、カカオの卸でもあります。だからこそ、自分たちの好みだけで決めるのではなく、使ってくださる皆さまの意見も反映しながら、味づくりをしていきたいと思っています。

8.もう一つの問題意識。CCN51苗木の無償配布

少し話は変わりますが、最近、Wiñak組合のあるエクアドル・ナポ県でも、CCN51品種のカカオ苗木の無償配布が進んでいます。

Wiñakでは、ナショナル種(アリバ)以外は植えないよう農家と取り決めをしています。しかし、隣接する組合ではCCN51も植えられています。

カカオは自然交配で実を結ぶため、長期的には地域全体への影響を避けることは難しいかもしれません。それでも、この地域らしい香りと品種の特別性を守る努力を、組合とともに続けていきたいと考えています。

9.まとめ

今年の発酵シーズンでは、4日目の温度上昇が例年より低いという違いが見られました。ただし、5日目には十分に温度が上がっているため、現時点では取り出しタイミングは大きく変えずに進めています。

また、果汁量の違いが発酵の安定性と品質にどう関係するのかを、実際の木箱比較の中で検証し始めました。論文上ではBack Additionという考え方もありますが、現場でどう再現されるのか、どんな香味に結びつくのかは、まだこれから見ていく段階です。

ママノとしては、フルーティでフローラルなアリバの魅力を最大化することを目指しながら、毎年の気候や原料状態に応じて、発酵設計を柔軟に調整していきます。

今後も、実測データと官能評価の両方を見ながら、よりよいカカオづくりを続けていきます。

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