ハリナシバチとは刺さない蜂の生態と、4種の見分け方
世界に552種。針を持たず、壺に蜜を貯める蜂。エクアドル・アマゾンの森の養蜂場で撮影した写真とともに解説します。
針を持たない蜂、ハリナシバチ
ハリナシバチとは、針が退化して刺すことのできない蜂です。ミツバチと同じハナバチの仲間で、学術的にはハリナシバチ族(Meliponini)と呼ばれます。集団で巣をつくり、花の蜜を集めて蜂蜜を貯める点はミツバチと同じですが、針を失ったこと、そして蜜を壺に貯めることが決定的に違います。
世界に58属552種が知られています。分布はアフリカ・アジア・オーストラリア・アメリカ大陸の熱帯と亜熱帯にかぎられ、日本には分布していません。アジアでの北限は台湾です。
種類が最も多いのは中南米で、約426種。なかでも多様性が高いのは、アマゾン盆地の低地熱帯雨林です。エクアドル1国だけでも23属132種が記録されています。
出典:Grüter C. (2020) Stingless Bees: Their Behaviour, Ecology and Evolution, Springer/Cabezas-Mera FS ほか (2023) Current Research in Food Science 7, 100543
数字で見るハリナシバチ
ハリナシバチ
(全体の約8割)
で記録された数
(北限は台湾)
なぜ針がないのか。刺さない蜂はどう巣を守るのか
ハリナシバチの針は、退化して刺す機能を失っています。「針なしミツバチ」「刺さない蜂」と呼ばれるのはこのためです。ただし、無防備なわけではありません。
刺せないかわりに、巣を守るときは噛みつくことと、体から出す化学物質で応戦します。種によっては、侵入者に群がって毛や体にまとわりつくこともあります。攻撃性は種によってかなり違い、人が近づいてもほとんど反応しない種もいれば、しつこくまとわりつく種もいます。
現地の養蜂家によると、黒い服を着ている人や髪の黒い人は噛まれやすいそうです。刺されることはないので危険はありませんが、巣に近づくときは明るい色の服のほうが無難だということです。
巣の守り方は、入口の構造にもはっきり表れています。ハリナシバチの巣は木の洞や幹の隙間など閉じた空間につくられ、外に通じるのは細い一本の入口だけです。この入口を樹脂やプロポリス、泥で固め、見張り役のハチが常駐します。夜になると入口を塞いでしまう種もいます。
入口の形は種ごとにはっきり異なります。テトラゴニスカは細いチューブ状、メリポナ・イブルネアはカエルの口のように横に広がった形、メリポナ・グランディスは泥と樹脂を練り上げた城壁のような形です。慣れると、入口を見ただけでどの種かが分かります。
エクアドルの養蜂場では、ハチを手のひらに乗せて観察することがあります。刺されることはありません。日本のスズメバチやミツバチのように刺されて痛い思いをする心配がないため、子どもや家族が一緒に巣箱を見に来ることもあります。
六角形ではなく壺。ポットハニーという仕組み
西洋ミツバチの巣を思い浮かべると、規則正しく並んだ六角形の巣板が浮かびます。ハリナシバチの巣は、それとまったく違います。
ハリナシバチは、蜜と花粉を壺のような形の容器に貯めます。この壺はセルメン(蜜蝋と樹脂を混ぜた素材)でつくられ、大きさは種によってさまざまです。壺に貯められることから、ハリナシバチの蜂蜜はポットハニー(pot-honey)と呼ばれます。
巣の中は役割ごとに分かれています。蜜と花粉を貯める壺の区画と、女王蜂が卵を産み幼虫が育つ育児房の区画です。育児房は壺とは別に、渦を巻くように、あるいは層状に積み上げられます。
この構造の違いは、味にも表れます。壺の中の蜜は水分が多いまま熟成し、微生物のはたらきも加わって、酸味のある独特の風味になります。
エクアドル・アマゾンで養蜂されている4種
ママノがエクアドル・ナポ県で扱っている4種です。すべて現地の養蜂家が巣箱で育てているもので、写真も現地で撮影しました。巣の入口の形、巣の内部の様子、そして蜂蜜の味が、種によってはっきり違います。
(小さな天使/angelita)
- 大きさ4〜5mm
- 巣の入口樹脂のチューブ状
- コロニー2,000〜5,000匹
- 蜂蜜の風味フルーティーで甘い
4種のなかで最も小さく、蚊ほどの大きさしかありません。巣の入口は樹脂でできた細いチューブ状に突き出ていて、見張り役のハチがそこを守ります。現地では「小さな天使」と呼ばれます。
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(カエル口バチ/boca de sapo)
- 大きさ7〜8mm
- 巣の入口カエルの口のような形
- 生産量約10g/日(開花期)
- 蜂蜜の風味フルーティーで酸味
巣の入口が横に広がり、カエルの口のように見えることから現地で boca de sapo と呼ばれます。硬いプロポリスを巣づくりに使い、それが溶け込んだ蜂蜜は濃厚で酸味があります。
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(お城のハチ/castle bee)
- 大きさ約1cm(4種で最大)
- 巣の入口凹凸のある丸い形
- 生産量約25〜30g/日(開花期)
- 蜂蜜の風味甘くフルーティー
4種のなかで最も大きく、巣の入口も泥と樹脂を練り上げた城壁のような姿をしています。コロニーが大きく生産量も多いため、蜂蜜は西洋ミツバチのものに最も近い甘さです。
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(キンカジューの黒蜂蜜)
- 大きさ約9mm
- 巣の入口丸く茶〜灰色の星形
- 蜂蜜の風味梅しそのような香り
- 流動性さらさらと水のよう
黒いお尻が特徴の種です。キンカジュー(別名ハチミツグマ)が巣を見つけて食べてしまうことから、現地では「キンカジューの黒蜂蜜」とも呼ばれます。
この蜂の蜂蜜を見る →西洋ミツバチとの違い
| ハリナシバチ | 西洋ミツバチ | |
|---|---|---|
| 針 | 退化していて刺せない | 刺す |
| 蜜の貯め方 | 壺状のポット | 六角形の巣板 |
| 1コロニーの採蜜量 | 最大1kg程度 | 最大5kg程度 |
| 蜂蜜の水分 | 多くさらさら | 少なく粘りがある |
| 糖度 | 低い | 高い |
| 味 | 酸味がある | 甘味が中心 |
| 分布 | 熱帯・亜熱帯のみ | 世界中(日本を含む) |
採れる量の少なさが、ハリナシバチの蜂蜜が希少とされる理由です。ママノが扱うメリポナ・イブルネアの場合、花の咲く時期でも1つの巣箱から1日およそ10gしか採れません。
なお、西洋ミツバチの蜂蜜には国際的な品質規格がありますが、ハリナシバチの蜂蜜については国際規格がまだ確立されていません。
出典:Rozman AS, Hashim N, Maringgal B, Abdan K. (2022) Applied Sciences 12(13), 6370
研究で報告されていること
ハリナシバチの蜂蜜は、抗酸化や抗菌のはたらきを持つ成分について研究が進められています。エクアドル在来のハリナシバチについても報告があります。
2023年に発表された研究では、エクアドル5州で採取された10種35検体のハリナシバチ蜂蜜が分析されました。ママノが扱うメリポナ・グランディスとテトラゴニスカ・アングスチュラも、この10種に含まれています。そのなかで抗菌活性の高かった5検体について、黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌、カンジダなどの病原体がつくるバイオフィルムを63〜80%抑えたと報告されました。薬剤耐性を持つ株も対象に含まれています。
ポリフェノールの組成は産地によって差があり、同じエクアドル国内でも州ごとに検出される成分が違っていました。熱帯雨林のどの花から蜜を集めたかが、そのまま成分に表れるためだと考えられます。
この研究で詳しく分析された5検体は、ママノが扱う種とは別の種のものです。また採取地にナポ県は含まれていません。ここで紹介したのは研究で報告されている内容であり、ママノの商品について効果や効能をお約束するものではありません。
※1歳未満の乳児にはちみつを与えないでください。
出典:Cabezas-Mera FS ほか (2023) Evaluation of the polyphenolic profile of native Ecuadorian stingless bee honeys (Tribe: Meliponini) and their antibiofilm activity on susceptible and multidrug-resistant pathogens. Current Research in Food Science 7, 100543(オープンアクセス)
巣を壊さずに蜜を採る。養蜂と森の関係
ハリナシバチを飼う養蜂は、メリポニカルチャー(meliponiculture)と呼ばれます。中南米では数千年前から行われてきました。
現在の巣箱は、蜜を貯める区画と育児の区画が仕切りで分かれた構造になっています。採蜜のときは蜜の入った上の段だけを取り出すため、女王蜂や幼虫のいる部分に手を触れずに済みます。巣そのものを壊さずに、毎年繰り返し収穫できるということです。
産地のエクアドル・ナポ県では、伝統的なチャクラ農法の農園に巣箱が置かれています。100種類以上の植物が共生する農園でハリナシバチが受粉を助け、農家は巣を傷つけずに蜂蜜を得ます。この循環が、農園の生態系をさらに豊かにしていきます。
ナポ県には、絶滅が心配される在来のハリナシバチを増やす取り組みもあります。ヘフェルソン・ナルバエスとアイデ・リクイが率いるHASA(Hospital de Abejas sin Aguijón/ハリナシバチの病院)は、5年間で50家族に巣箱と技術研修を提供してきました。ママノの蜂蜜は、こうした現地の取り組みとともにあります。
ハリナシバチのよくある質問
ハリナシバチとは何ですか?
針が退化して刺すことのできないハナバチの仲間で、学術的にはハリナシバチ族(Meliponini)と呼ばれます。世界に58属552種が知られ、アフリカ・アジア・オーストラリア・アメリカ大陸の熱帯と亜熱帯に分布しています。ミツバチと同じように集団で巣をつくり、蜂蜜を貯めます。
日本にもいますか?
いません。ハリナシバチは熱帯と亜熱帯に分布する蜂で、アジアでの北限は台湾です。日本には自然分布していません。
本当に刺さないのですか?
刺しません。針が退化しているためです。ただし無防備なわけではなく、巣に近づくと噛みついたり、体から出す化学物質を使ったりして防御します。エクアドルの養蜂場では、手のひらに乗せても刺されることはありません。
養蜂のとき、気をつけることはありますか?
現地の養蜂家によると、黒い服を着ている人や髪の黒い人は噛まれやすいそうです。刺されることはないので危険はありませんが、巣に近づくときは明るい色の服のほうが無難だということです。
ミツバチと何が違いますか?
最も目立つ違いは巣の形です。西洋ミツバチが六角形の巣板に蜜を貯めるのに対し、ハリナシバチは壺のような形をした容器に貯めます。このため、ハリナシバチの蜂蜜は「ポットハニー」と呼ばれます。採れる量も大きく違い、1つのコロニーから採れる蜂蜜は最大1kg程度で、西洋ミツバチの最大5kgに対しておよそ5分の1だと報告されています。
ハリナシバチの蜂蜜はどんな味ですか?
西洋ミツバチの蜂蜜に比べて水分が多くさらさらとしており、糖度が低く、はっきりとした酸味があります。熱帯雨林のさまざまな花から蜜を集めるため、種類や季節によって香りが大きく変わります。
世界にどのくらいの種類がいますか?
58属552種が知られています。そのうち最も種類が多いのは中南米で、約426種が分布します。特に多様性が高いのはアマゾン盆地の低地熱帯雨林です。エクアドル1国だけでも23属132種が記録されています。
ハリナシバチの蜂蜜はどこで買えますか?
ママノチョコレートのオンラインショップで、エクアドル・アマゾンのナポ県で採れた4種を販売しています。まず試すなら30ml、日常使いや贈りものには250ml(パウチ)をご用意しています。
養蜂すると森は壊れませんか?
巣箱を使った養蜂では、蜂蜜を貯める部分と、女王蜂が卵を産む育児の部分を仕切って管理します。採蜜のときは蜜の入った上の段だけを取り出すため、巣そのものを壊さずに収穫できます。ハリナシバチは農園の植物の受粉を助けるため、養蜂は森の生態系を豊かにする方向に働きます。
ハリナシバチの蜂蜜を味わう
このページで紹介した4種の蜂蜜を販売しています。それぞれ香りも酸味も違うので、食べ比べていただくのがおすすめです。
メリポナ・グランディス
メリポナ・イヨタ
メリポナ・イブルネア
テトラゴニスカ
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アマゾンチャクラ農法
森林伐採、気候変動の救世主と注目されるアマゾンチャクラとは、伝統的なアグロフォレストリー(森林農業)です。エクアドル・ナポ県の先住民キチュア族が1ヘクタールに100種以上の植物を栽培しています。2023年に国連食糧農業機関(FAO)より世界農業遺産に認定。
アマゾンチャクラとは?