ナポ県のアマゾンアリバ
先住民キチュア族のウィニャック組合が、チャクラと呼ばれる多様な植物が育つ農園で栽培しています。ママノが扱う4日発酵のロットでは、フルーティ、ハーバル、フローラルな香りを中心に、軽やかなボディを感じます。
エクアドル産カカオのガイド
エクアドル産チョコレートは、花や果実を思わせる香りで知られます。ただし、味は国名だけでは決まりません。カカオの系統、地域や農園の栽培方法、発酵と乾燥、焙煎と製造の組み合わせで変わります。エクアドルでカカオを買い付け、現地の組合と品質づくりを続けてきたママノが、実際に扱った豆をもとに違いと選び方を紹介します。
エクアドル産チョコレートとは、エクアドルで収穫されたカカオを原料にしたチョコレートです。ナショナル系のカカオに見られる花のような香りがよく知られていますが、エクアドルのすべての豆が同じ香りを持つわけではありません。沿岸部とアマゾン地域では環境が異なり、同じ地域でも農園、収穫時期、カカオの系統、収穫後の処理によって個性が変わります。
ママノ代表の江沢が、エクアドルのアマゾンで育ったカカオのチョコレートを初めて食べたのは2012年です。口に入れた瞬間、ライチのようなトロピカルな香りに驚きました。それまで食べてきたチョコレートとは違う香りでした。この体験が、先住民キチュア族のカカオを扱う店を翌年に始めるきっかけになりました。
その後、ママノはエクアドル各地のカカオを扱い、産地名だけでは味を説明できないことを学びました。ワインのように、国名の先にある地域、農園の栽培方法、系統、収穫年、発酵日数まで分けて見ると、チョコレートの違いが理解しやすくなります。
同じエクアドル産でも味が変わる理由は、次の4つに分けて考えられます。
カカオ分70%などの数字は、配合を知るための情報です。同じ70%でも、原料と工程が違えば香り、酸味、苦味、口どけは変わります。カカオ分だけで味を予想するのが難しいのは、このためです。
この3つは、同じ種類の名前ではありません。ナショナルは遺伝的な分類、アリバは香り高いエクアドル産カカオの呼び名、CCN51はナショナルとは別の栽培品種です。役割を分けて見ると、表示から分かることと、追加で確認すべきことが整理できます。
| 名称 | 何を示すか | 確認したいこと |
|---|---|---|
| ナショナル | エクアドルと結びつきの深い、カカオの遺伝的な分類の一つです。正確にはナショナル系統、またはナショナル種と呼びます。純系ナショナルから、ナショナルを含む多様なハイブリッドまであります。 | 純系か、どのようなナショナルハイブリッドか。地域と農園の栽培方法。 |
| アリバ | 香り高いエクアドル産カカオに使われる商業上の呼び名です。エクアドルでは地理的認証の対象にもなっています。特定の遺伝的系統や、一つの栽培品種だけを指す言葉ではありません。 | ナショナル系か別の系統か、産地、混合の割合、発酵と乾燥の条件。 |
| CCN51 | エクアドルで育成された、ナショナルとは別の栽培品種です。収量や耐病性などの農業特性がナショナル系と異なります。 | 品種名だけで良否を決めず、収穫後の処理と実際の風味を確認する。 |
つまり、「アリバ」と表示されていれば香り高いエクアドル産カカオとして扱われていることは分かります。ただし、それだけでは遺伝的な系統や混合の割合までは分かりません。ママノがウィニャック組合から仕入れるアマゾンアリバは、ナショナル系を中心としたロットです。ママノではCCN51を混ぜない方針で組合と品質管理を行っています。ママノが扱うアマゾンアリバの産地と取引は、別ページで紹介しています。
下の図は、ママノが実際に扱った3種類のカカオ豆を比較したものです。香りの記述は、エクアドル全土を一括りにした一般論ではなく、それぞれのロットを試食し、発酵と焙煎を調整した結果です。
先住民キチュア族のウィニャック組合が、チャクラと呼ばれる多様な植物が育つ農園で栽培しています。ママノが扱う4日発酵のロットでは、フルーティ、ハーバル、フローラルな香りを中心に、軽やかなボディを感じます。
ママノが扱った6日発酵のロットでは、まっすぐな花の香りに、甘さ、ミルキーさ、コクが重なりました。発酵を長くすれば必ずよくなるのではなく、この豆に必要なボディをつくる設計です。
クラレイ系とアリバ系が自然交配した豆を含むロットです。ラベンダー、バラ、ユリを思わせる香りと、青リンゴのような明るい果実感が特徴でした。
3種類の原料をさらに詳しく比べる場合は、2025年収穫のエクアドル産カカオ豆3種類の比較をご覧ください。
収穫期も「エクアドルでは年2回」のように一律では説明できません。ママノが拠点を置くナポ県では3月から5月が収穫の中心ですが、その年の天候によって始まりが前後します。南部アマゾンのサモラ・チンチペ県では4月から6月が中心で、少量はそれ以外の時期にも収穫されます。同じ県内でも標高と場所によって実が熟す順番が変わるため、収穫年とロットを分けて確認します。
カカオは、実から豆を取り出した時点でチョコレートの香りが完成しているわけではありません。白い果肉が付いた豆を発酵させると、豆の内部で香りと味のもとになる変化が進みます。その後の乾燥で水分を下げ、品質を安定させます。
ウィニャック組合では、収穫したカカオを原則として翌日までに集荷し、病気や未熟な実、果実の芯などを取り除きます。集めた豆は発酵乾燥センターの三段木箱へ入れます。1箱約400kgのまとまった量で発酵させることで、少量を袋ごとに発酵させるよりも、温度と工程を管理しやすくします。
ママノは、同じ原料を発酵日数ごとに分けて乾燥し、香りを比べてきました。ウィニャック組合のアマゾンアリバでは、3日目以降、花や果実、青さを感じる香りが少しずつ穏やかになる一方、チョコレートらしいコク、ボディ、クリーミーさが増す傾向を感じました。そこで、繊細な香りを残すロットは4日発酵を基準にしています。
これは「4日がエクアドル産カカオの正解」という意味ではありません。豆の系統、収穫時の状態、量、設備、気温、求める味によって適した日数は変わります。エスメラルダスのロットでは6日、クラレイミックスでは5日を採用した例もあります。発酵日数は長短で優劣を決める数字ではなく、どの香りを残し、どの味を育てるかという設計です。栽培から製造までの流れは、ママノのチョコができるまでで紹介しています。
発酵と乾燥で整えた豆も、焙煎によって印象が変わります。ママノでは、生豆、80度、110度、130度で焙煎した豆を比較しました。温度を上げる過程で、リンゴや洋梨を思わせる繊細な果実香が先に弱くなり、次に揮発しやすい花の香り、さらに輪郭の強い花の香りが穏やかになる傾向を感じました。
一方、焙煎を進めると、香ばしさ、甘さ、コクを感じやすくなります。低温なら常によい、高温なら常によいという関係ではありません。焙煎機、投入量、時間、その後のコンチングによって結果は変わります。ママノの比較は、原料の繊細な香りがどの工程で変わるかを確かめ、商品ごとの設計に使うための試験です。
花や果実の香りを比べたい場合は、香りの説明が具体的な商品から選ぶと違いを見つけやすくなります。苦味の強さだけを基準にせず、少量を口の中でゆっくり溶かし、最初の香りと余韻を分けて感じてみてください。
業務用では、風味に加えてロットの安定性と製造のしやすさが必要です。ママノは、産地、系統、発酵日数、乾燥、保管の情報をロットと結びつけ、出荷前に豆の大きさと欠点豆を確認しています。ウィニャック組合の豆は、機械選別後に手でも確認し、ママノではASSSとASSの二つの大きさを商品として扱っています。豆の大きさをそろえるのは、大きいほどおいしいからではありません。焙煎時の焦げや未焙煎のばらつきを減らし、製造条件を安定させるためです。
2025年の買い付けでは、袋ごとに収穫したコミュニティと集荷日を記録しました。同じ組合の豆でも、集荷した場所と時期が分かれば、試作で評価した香りを次の仕入れへつなげられます。産地を物語として表示するためだけではなく、原料を再評価し、改善を生産地へ返すためのトレーサビリティです。
板チョコ、ボンボン、焼菓子、ジェラート、ドリンクでは、必要な香りと脂肪分、粘度、ボディが異なります。商品名だけで決めず、候補をサンプルで比較し、自社の設備と配合で確認する方法が確実です。用途が決まっていない場合も、目指す香りや食感を聞きながら候補を絞って紹介します。
森林伐採、気候変動の救世主と注目されるアマゾンチャクラとは、伝統的なアグロフォレストリー(森林農業)です。エクアドル・ナポ県の先住民キチュア族が1ヘクタールに100種以上の植物を栽培しています。2023年に国連食糧農業機関(FAO)より世界農業遺産に認定。
アマゾンチャクラとは?