発酵が進んだカカオ豆の断面。紫からピンクへ色が変化している

カカオ発酵で香りはどう変わるか。ウィニャック組合の工程と品質管理

カカオの発酵とは、収穫した豆を果肉ごと木箱に入れ、微生物のはたらきと温度の上昇によって、チョコレートの香りのもとをつくる工程です。ママノチョコレートは、エクアドル・ナポ県のウィニャック組合(WINAK)と一緒に、この工程を毎年計測しながら設計しています。この記事では、集荷から発酵、乾燥、選別、輸送までの流れと、2026年の実測から見えた変化を紹介します。

図1 収穫から日本に届くまでウィニャック組合でママノ向けのカカオが通る8つの工程
  1. 収穫集荷の前日に農家がカカオポッドを割る
  2. 果汁を落とすメッシュの専用ビニール袋に入れて一晩
  3. 集荷・計量組合がコミュニティを回り、その場で支払う
  4. 発酵木箱で約96時間。5日目に取り出す
  5. 乾燥メッシュの台で天日干し。1週間〜12〜13日
  6. カットテスト・選別発酵度75%以上を確かめ、欠点豆を除く
  7. 梱包グレインプロ20kg+脱酸素剤+白い外袋
  8. 輸送10℃以下の冷蔵コンテナで船便

発酵は何をしているのか

カカオ豆は、収穫してそのまま乾かしてもチョコレートの香りにはなりません。果肉に含まれる糖を微生物が分解し、その熱で木箱の中の温度が上がっていきます。この温度上昇が、種子としての成長を止め、香りのもとになる反応を進めます。

ママノでは発酵を終える条件のひとつとして、木箱内の温度が45度を超えて数時間が経過していることを重視しています。日数だけで機械的に決めているわけではありません。

最初の48時間は木箱の中身を動かさず、果肉どうしが密着した酸素の少ない状態で発酵させます。香りは、発酵中の酸っぱい香りから、乾燥中のフローラルな香りを経て、最後はチョコレートに近い香りへ変わります。

動画で見る:48時間の嫌気発酵(セミナー記事)/発酵から乾燥までの香りの変化(セミナー記事)

ウィニャック組合の集荷から発酵まで

ウィニャック組合では、おおむね次の流れでカカオが集まります。

  1. 農家が前日にカカオポッドを割る
  2. メッシュの専用ビニール袋に入れて果汁を自然に落とす
  3. 翌日に組合が集荷に来る
  4. 計測と支払いを行う
  5. 組合に持ち帰り、木箱に400kg入れて発酵を開始する

発酵は3段に重ねた木箱を4列並べて行い、定期的に撹拌します。近いコミュニティと遠いコミュニティ、収穫した時間、果実の状態によって、木箱に入る時点の果汁量にはばらつきが出ます。

図2 発酵箱の仕組み3段に重ねた木箱を4列並べる。木箱はカカオの味に影響しない在来のローレル材
上段中段下段
  1. 最初の48時間は上段で動かさない(酸素の少ない発酵)
  2. そのあと1日ごとに下の段の箱へ移す。移すと上下が入れ替わり、均一に撹拌できる
  3. 5日目に取り出す。1箱に約400kg

農家は組合との約束で集荷の前日に収穫するので、実を割ってから発酵箱に入るまでは10時間から14時間ほどです。木箱には、カカオの味に影響しないことが確かめられた在来のローレル材を使っています。箱から箱へ移すと上下が入れ替わり、パドルで混ぜるより均一に撹拌できます。

動画で見る:集荷と収穫の時間(セミナー記事)/ローレル材の発酵箱(セミナー記事)

ママノが見ている5つの数値

2026年のシーズンは、次の5項目を継続して記録しています。

  • Brix(糖度)
  • 果肉のpH
  • ニブ(豆内部)のpH
  • 木箱内の温度
  • 外気温
図3 ママノが記録している5つの数値木箱の中の変化を数値で追い、最後は乾燥後の豆を味わって判断する
Brix(糖度)果肉の糖が微生物に使われていく進み具合。最初の24時間で大きく下がる
果肉のpH発酵で果肉に生まれる酸の変化
ニブのpH豆の中まで酸が入った度合い。発酵を延ばすと下がる
木箱の温度45℃を超えて数時間たつことが、発酵を終える条件のひとつ
外気温寒い年は木箱の温度が上がりにくい(2026年)

木箱の中の変化を数値で追いながら、最後は乾燥後の豆を実際に味わって、その年の発酵設計を判断します。

2026年の発酵経過の記録。中心温度、ロット別のBrix、果肉と豆内部のpHの推移を示したグラフ
中心温度、Brix、果肉と豆内部のpHを経過時間ごとに記録しています。

pHの計測は2025年のシーズンから始めました。

動画で見る:糖度計とpH計で測る(セミナー記事)

発酵を終えるタイミング

ママノ向けのロットは、近年はおよそ96時間を基本として、5日目に木箱から取り出しています。ただし発酵日数は年やロットによって変わります。同じ組合の豆でも、その年の気候や、どの顧客向けのロットかで設計が違います。例年の温度の動きは次のとおりです。

  • 4日目に平均43度ほどまで上昇し、40度を下回ることはほとんどない
  • 5日目に48度ほどまで上がり、その時点で発酵を終える

目安の温度は年によって違います。2024年ごろは最後の木箱で49度前後を目安にしていましたが、いまは45度を目安にしています。50度を超えること自体は問題なく、50度を超えた状態が長く続くと発酵のしすぎになります。雨が多く外気温が下がる時期は、木箱を覆って温度を保ちます。

動画で見る:2024年当時の温度の目安(セミナー記事)/最終箱で45〜49度を確認(セミナー記事)

2026年に見えた変化

2026年のナポ県は例年より寒く、雨の多いシーズンになりました。収穫の立ち上がりも12月ではなく1月下旬からでした。その影響で、4日目の温度の上がり方が例年より低くなりました。

  • 4日目の木箱内温度が33度から40度にとどまるケースが多い
  • ただし5日目には前年と同じく48度前後まで上がる
図4 4日目・5日目の木箱内温度寒かった2026年は4日目の上がり方が低かった

例年(4日目 平均約43℃・5日目 約48℃) 2026年(4日目 33〜40℃・5日目 約48℃)

50℃超が長く続くと発酵しすぎ30℃35℃40℃45℃50℃55℃いまの目安 45℃4日目5日目43℃48℃33〜40℃48℃

目安の温度は年によって違い、2024年ごろは49℃前後、いまは45℃。50℃を超えること自体は問題ない。1〜3日目は記事に数値がないため描いていない。

途中の上がり方は違うものの、最終到達点は近い状態です。取り出しまでの経過時間は前年と同じで進めています。この違いが最終的な香味にどう出るかは、乾燥後の評価とあわせて見ていきます。

ロット別の発酵推移。Brix、果肉pH、豆内部pH、中心温度を経過時間ごとに並べた4つのグラフ
ロットごとに経過を分けて記録し、その年の設計を判断します。

ナポ県は1月から5月に雨が多く、湿度が高いときは、普段5cmほどに積む豆を薄く広げて乾かします。

動画で見る:2026年の天候と乾燥(セミナー記事)

発酵日数を変えると香りはどう変わるか

発酵時間の違う豆を別々に乾燥させて評価したところ、次の傾向が見られました。

  • フローラル、フルーティ、青さは、3日目以降に少しずつ減っていく
  • チョコレートらしさ、コク、ボディ、ミルキー感は、少しずつ増えていく

ママノがウィニャック組合のアリバに求めているのは、フルーティさとフローラルさを最大にする方向です。そのため短めの発酵を選んでいます。軽やかなボディになりやすく、低温焙煎と相性のよい豆になります。

ウィニャック組合は、ママノ以外の海外の顧客向けには6日発酵で仕上げている豆もあります。2026年の実測では、5日目より6日目のほうがニブ内部のpHが0.1から0.7ほど低く、木箱の中心温度も2度から3度低いという違いが出ました。同じアリバでも、同じ組合でも、目指す味が違えば発酵設計は変わります。

アリバの繊細な香りは飛びやすいため、ママノは発酵を短めにして香りを残す方針をとっています。発酵が浅い豆ほど酸味は残りますが、酸味はチョコレートづくりのコンチングで調整できます。

動画で見る:4日と5日発酵の切り比べ(セミナー記事)/ママノが発酵を短くする理由(セミナー記事)

乾燥。水分値を7%以下に落とす

発酵を終えた豆は、乾燥テント内の高床式乾燥台で天日干しします。雨の多い地域なので、乾燥は毎年の課題です。

2025年のロットでは、雨が続いて水分値が7.8%まで上がったため、3日ほど再度天日干しをして水分値を下げてから、輸出用のグレインプロバッグに詰めました。出荷時の水分値は6.8%でした。水分値が高いままだとカビの原因になります。

乾燥台の床には食品用のプラスチックのメッシュを敷き、下からも空気が通るようにしています。豆の層は厚さ5cmまでにして、2時間おきに動かし、上と下が均一に乾くようにします。乾燥は天候しだいで1週間から12〜13日かかります。メッシュの台で乾かすと、床で乾かすより酢酸が抜けやすくなります。

出荷前の検査で水分値が7%を超えていた豆は乾燥テントに戻し、2日から3日かけて6%から6.5%まで下げます。目標は7%以下で、2026年は6.5%以下で出荷しました。

図5 水分の管理目標は7%以下。出荷前の検査で超えていたら乾燥に戻す
乾燥(1週間〜12〜13日)→水分計で測る→7%以下なら梱包へ
7%を超えていたら→乾燥テントに戻して2〜3日→6〜6.5%まで下げる
2025年の例雨が続いて7.8%まで上がり、3日ほど干し直して出荷時は6.8%
2026年の例6.5%以下で出荷

動画で見る:メッシュの乾燥台(セミナー記事)/7%を超えた豆の再乾燥(セミナー記事)

選別と欠点豆

乾燥した豆は、機械と手作業を組み合わせて選別し、不純物と欠点豆を取り除きます。ウィニャック組合とママノの現地パートナーが直接、品質チェックを行います。

発酵の進み具合はカットテストで確認します。豆を切って断面の色を見ると、発酵が十分に進んだ豆と不足している豆を見分けられます。ママノが使う豆は、発酵度が高く欠点豆の少ないものを選んでいます。

カットテストは専用の器具で50粒を一度に半分に切り、発酵不足の粒数を2倍して百分率にします。半分ほど発酵している粒は0.5粒として数えます。発酵度の最低基準は75%以上で、実際には85%から90%ほどになることが多いです。

ウィニャックの豆は発酵が終わっても断面が紫色のまま残ることがあるため、断面の割れ目の入り方で発酵を判断します。まったく発酵させずに乾燥させた豆は、断面が灰色になります。組合は集荷の時点で、未熟な果肉や病気の果肉を買い取りません。

図6 カットテストの読み方専用の器具で50粒を一度に半分に切る
50粒を切る→発酵不足の粒を数える
(半分だけ発酵した粒は0.5)
→粒数×2=発酵不足の%→発酵度75%以上で合格
茶色+割れ目
発酵済み
紫色+割れ目
発酵済み
灰色
未発酵

ウィニャックの豆は発酵が終わっても断面が紫色のまま残ることがあるため、色よりも割れ目の入り方で判断する。実際の発酵度は85〜90%になることが多い。

動画で見る:50粒カットテストの計算(セミナー記事)/紫色でも発酵済みの見分け方(セミナー記事)

保管と輸送

選別を終えた豆は高品質袋で保管し、10度以下の温度を保った船便で日本へ運びます。エクアドルを出てから届くまでの間に品質が落ちないようにするためです。

ママノ向けの豆は1袋20kgのグレインプロバッグに詰め、脱酸素剤を5個入れて虫が生きられない状態にします。その外側を白い袋で包み、口をミシンで縫い合わせます。グレインプロ、脱酸素剤、白い外袋はエクアドル政府の規格ではなく、自主的に行っている対策です。

動画で見る:グレインプロと白い袋での梱包(セミナー記事)/冷蔵コンテナで出荷(セミナー記事)

よくある質問

カカオの発酵は何日かかりますか。

ママノ向けのウィニャック組合のロットは、近年はおよそ96時間を基本として、5日目に木箱から取り出しています。ただし日数だけで決めるのではなく、木箱内の温度が45度を超えて数時間経過していることを条件のひとつにしています。発酵日数は年やロットによって変わります。

発酵の日数が変わると味はどう変わりますか。

発酵時間の違う豆を比べると、フローラル、フルーティ、青さは3日目以降に少しずつ減り、チョコレートらしさ、コク、ボディ、ミルキー感は少しずつ増える傾向がありました。

発酵中はどんな数値を測っていますか。

Brix(糖度)、果肉のpH、ニブ(豆内部)のpH、木箱内の温度、外気温の5項目です。数値を追ったうえで、最後は乾燥後の豆を味わって判断します。

2026年の発酵は例年と何が違いましたか。

4日目の温度の上がり方が低くなりました。例年は4日目に平均43度ほどまで上がり40度を下回ることはほとんどありませんが、2026年は33度から40度にとどまるケースが多く見られました。ただし5日目には前年と同じく48度前後まで上がっています。

乾燥はどのように行いますか。

乾燥テント内の高床式乾燥台で天日干しします。雨が続いて水分値が上がった場合は、再度天日干しをして下げてから袋詰めします。

発酵の状態はどうやって確認できますか。

カットテストで確認します。豆を切って断面の色を見ると、発酵が十分に進んだ豆と不足している豆を見分けられます。ご希望があれば、カットテストにオンラインで立ち会っていただくこともできます。

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