
【アーカイブ公開】9/6(土)AM8:00- アリバカカオとは何か?ナショナル種カカオとは何か? INIAP研究所によるオンラインセミナー
<開催後>
プレゼンテーション資料
発言録
(aiによる自動生成。誤りの可能性があるため参考程度)
【詳細レポート】エクアドルのカカオセミナー:起源、遺伝資源、そして未来を拓く最新品種
【登壇者】
専門家: エクアドルのカカオ研究者 INIAPJames Quiros博士
参加者: セミナーの聴衆(質問者)
第一部:エクアドルカカオの起源と遺伝的多様性
専門家: 皆さん、こんにちは。本日はエクアドルのカカオについて、その起源から最新の品種改良まで詳しくお話しします。カカオの起源は、アマゾン川上流の流域全体に広がっています 。現在では、この広大な地域に複数の遺伝的グループが存在することがわかっています。低地アマゾン由来のもの、高地アマゾン由来のもの 、そして伝統的なクリオロ種、トリニタリオ種、そしてエクアドルが誇るナショナル種です 。
エクアドルには、国の宝ともいえる広大な「遺伝資源バンク(ヘルモプラズマバンク)」があります 。これは、国内各地、特にアマゾン地域の川沿いから収集された、多様なカカオの木を保存している施設です 。この遺伝資源が、私たちの品種改良の基盤となっています。
第二部:良いカカオの木を見極める基準
参加者: 素人質問で恐縮ですが、「良いカカオの木」というのは、具体的にどのような基準で判断されるのでしょうか?
専門家: 非常に良い質問です。私たちは、農家の方々に自信をもって推奨できる品種を選ぶために、多くの agronomic characteristics(農業特性)を評価します。主な基準は以下の通りです。
生産性: まず、1本の木から最低でも80個のカカオポッド(スペイン語でマソルカ)が収穫できることが目標です 。
ポッド指数 (Índice de mazorca): 1kgの乾燥カカオ豆を得るために、何個のポッドが必要かを示す数値です。この数値が低いほど、効率が良いとされます 。
種子指数 (Índice de semilla): 乾燥させたカカオ豆一粒の重さです 。これも重い方が望ましいです 。
耐病性: 病気にかかる果実の割合が、全体の30%を超えないことが一つの目安です 。
香りと風味: 私たちが開発した0から5の評価スケールで、少なくとも2から2.5以上のスコアを持つこと 。
脂肪含有量: チョコレートの品質に直結するため、脂肪分が高いことも重要です 。
自家和合性 (Autocompatible): これも非常に大切な特性で、他の木の助けを借りずに、自分の花粉で受粉し実をつける能力のことです 。農家にとっては、1本でも安定して収穫できる木が理想的です。
私たちは、これらの基準をすべて高いレベルで満たす品種の開発を目指しています。
第三部:エクアドルにおける品種改良の歩み
専門家: エクアドルでのカカオ研究は長い歴史があります。
1937年〜1970年: この時期、国内でカカオが収集されたり、病害虫に強い品種としてトリニダードからカカオが導入されたりしました 。この時に入ってきた外来種が、エクアドル元来のナショナル種と自然に交配し、今日「ナショナル・タイプ」と呼ばれる多様な遺伝的グループが形成されたのです 。
1970年代(第一世代): 研究の成果として、最初の6品種が選抜され、国内の農家へ推奨されました 。これらの品種の収量は、1ヘクタールあたり約1.5トンでした 。特に「EET-95」「EET-96」「EET-103」といった品種は、その優れた香りと風味から、今なお一部の生産者に利用され続けています 。
第二世代(気候への適応): 次のステップとして、特定の気候条件に強い品種の開発に着手しました 。例えば、「EET-544」と「EET-558」は乾燥に強く、「EET-575」と「EET-576」はエスメラルダス北部やアマゾンの一部のような湿度の高い地域でも安定して育ちます 。
早熟性の追求: 農家が早く収入を得られるように、収穫までの期間が短い「早熟性」を持つ品種も開発しました 。通常、植え付けから収穫まで2年以上かかりますが、これらの品種はそれより早く、中にはわずか9ヶ月で実をつけ始めるものもあります 。
1995年以降(科学的アプローチの導入): この頃から、より科学的な手法を用いた交配が本格化します 。そして2016年以降、私たちは目覚ましい成果を上げる新世代の品種をリリースし始めました 。
第四部:新世代のエリートカカオ「FINCAシリーズ」
専門家: 2016年以降に開発された新品種は、1ヘクタールあたり3トン以上という、従来とは比較にならない収量を実現しています 。古い品種と比べ、病気への耐性が劇的に向上していることも大きな特徴です 。
ここで、エクアドルのナショナル種を見分ける面白い特徴をお見せしましょう。この写真の花を見てください。雄しべが赤いでしょう? 。これはナショナル種の遺伝子を持つカカオだけのユニークな特徴で、実を味わわなくても、花を見るだけでナショナル種かどうかを判別できるんです 。
それでは、代表的な新品種をいくつかご紹介します。
FINCA 800 & 801:
FINCA 800: このシリーズの中で最も香りが高い品種です 。
FINCA 801: 香りは800番に一歩譲りますが、脂肪分が52〜53%以上と非常に高く、チョコレート製造に最適な特性を持っています 。
両品種とも、収量は1ヘクタールあたり年間約3トンです 。
FINCA 802:
由来: アマゾン由来の2品種「Amazonas 14」とコロンビアで収集された「EBC 148」を掛け合わせたハイブリッドです 。
収量: 年間を通じて安定して実をつけ、収量は1ヘクタールあたり3.5トンに達します 。
風味: 際立った特徴を持っており、蜂蜜やキャラメルに例えられる強い甘い香りに加え、フローラル、赤い果実、ナッツの風味が複雑に絡み合います 。
物理的特徴: 豆一粒が1.72gと非常に大きく 、種子の皮(カスカリージャ)がとても薄いのも利点です 。
FINCA 803 & 804(湿潤地域向け):
FINCA 803: エクアドル南部の有名なアロマカカオの産地「Tenguel」の遺伝子を持つ品種で、特にエスメラルダスのような湿度の高い地域で素晴らしい成績を収めています 。糖度が22.7度と非常に高いのも特徴です 。
FINCA 804: こちらも湿潤地域向けです 。香りはフローラル系ではなく、フルーティーさとナッツの風味が非常に強く感じられます 。
私たちは、このように各地域の気候や土壌に最適な品種を推奨することで、生産者が安心して栽培に取り組めるようサポートしています 。
第五部:質疑応答と未来への展望
参加者: かつてエクアドルカカオの名声を築いた、オリジナルのナショナル種は絶滅してしまったという話を聞いたことがありますが、本当でしょうか?
専門家: その噂には真実の部分と、そうでない部分があります。確かに、多くの農家の畑からは、オリジナルのナショナル種の90%以上が姿を消してしまいました 。しかし、私たちはそれらの貴重な木々を遺伝資源バンクで系統的に保存しており、絶滅はしていません 。そして、その優れた遺伝子を親として使い、失われた香りや風味を現代の品種で蘇らせる研究を続けているのです 。
参加者: 農家が昔ながらの農園(チャクラ)で、自分たちで選抜してきたカカオについてはどうお考えですか?
専門家: それは非常に価値のあるものです。彼らの農園で育ったカカオは、その土地の環境に完璧に適応しています 。その風味は大変興味深く、大きなポテンシャルを秘めています 。私たちの役目は、その中から特に生産性の高い木を見つけ出し、接ぎ木(トップチェンジ)などの技術で農園全体の生産性を高めるお手伝いをすることです 。農家の方々が持つ先祖代々の知識は、私たちが尊重し、学ぶべきものです 。
専門家: 最後に、今後の展望についてお話しします。私たちは現在、クリオロ種の持つ「素晴らしい風味」と、ナショナル種の「フローラルな香り」を融合させた、全く新しいプロファイルを持つカカオの開発を進めています 。
同時に、現代社会が直面する課題にも取り組んでいます。具体的には、土壌からカドミウムなどの重金属を吸収しにくい品種や、気候変動による干ばつにより強いレジリエントな品種の開発です 。
これらの新しい品種が、実際に皆さんの元に届くまでには、様々な場所での試験栽培が必要です 。適応性を見極めるのに、少なくとも4〜5年はかかるでしょう 。
本日は長時間にわたり、ご清聴いただきありがとうございました。
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【セミナー開催のお知らせ】
『アリバカカオとは何か?ナショナル種カカオとは何か? INIAP研究所によるオンラインセミナー』
■ セミナー開催の背景
エクアドルのカカオは、その独自性と豊かな香りで、日本のチョコレート業界でも注目を集めています。
しかし、「エクアドルカカオ」や「アリバカカオ」の評価が高まる一方で、ナショナル種(アリバカカオ)の多様性やエクアドル国内での取り組みを学ぶ機会は、まだ多くありません。
また、エクアドルには今も純粋な「ナショナル種」が存在しており、絶滅していないことも広く知られていません。
今回、エクアドル国立農業研究所(INIAP)のカカオプログラム責任者を招き、科学的知見と最新研究成果を日本の皆様に共有するオンラインセミナーを開催します。
■ セミナー概要
- テーマ:「アリバカカオとは何か?ナショナル種カカオとは何か?」
- 登壇者:ハメス・キロス博士(INIAP カカオ・コーヒープログラム責任者)
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日時:2025年9月6日(土)午前8:00〜(日本時間)
※エクアドル時間:9月5日(金)18:00〜 - 所要時間:約90分(プレゼン30分+通訳30分+質疑応答30分)
- 通訳:逐次通訳あり
■ ママノチョコレートについて
2013年創業のチョコレートブランド。エクアドル・ナポ県のチャクラ農法で育てられたアリバカカオのみを使用し、東京・赤坂に1店舗を構えています。
現地では創業時からUlrich Zebischが南米代表として活動しています。
また、INIAPと協力し、野生ホワイトカカオ「クラレイ種」の遺伝子分析プロジェクトも進行中です。
■ セミナーの目的
日本でよく聞かれる疑問、
「アリバって何?」
「ナショナル種は絶滅していないの?」
といった声に、科学的な見地から答えます。
また、「エクアドル産」「アリバカカオ」と一括りにされがちなカカオに、実は多様な品種や香り、栽培方法があることを丁寧に解説します。
■ 想定される内容(予定)
- アリバカカオとは何か?
- ナショナル種との違いと歴史
- ナショナル種の保全活動とEETシリーズの研究
- 野生種クラレイの可能性
- ファインアロマカカオの今と未来
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